いとおしい糸 ふたたび京都へ

今回の京都への旅のメインイベントは...

「アルスシムラ1日体験 染めと機織りのワークショップ」でした。

 

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 (Instagram掲載写真に同じ)

 

わたしのSNSを見てくださっている方ならご存知の方も多いとは思いますが、8月1日〜8月2日で京都に行っていました。実は、上記のイベントに参加するためだったのです。

ゼミの先生がたびたび志村ふくみさんのことを話すのを聞いて興味を持ち、自分の目と耳と鼻とぜんぶぜんぶで、志村ふくみさんの色を見てきたいと思って参加しました。

 

2017年に一念発起し、京都を訪れて以来でしたので、二度目の京都でした。

 

the45zasshi.hatenadiary.com

 

いったん話が逸れましたが、そもそも、アルスシムラとは?

以下に説明に足りうる文章を引用します。

志村ふくみ・志村洋子が創造した染織の世界を、芸術体験を通して学ぶ場としてアルスシムラは設立されました。授業では、草木で染めて、機で織り、作品を制作していきます。手仕事を通してものに触れ、しむらの染織の技と精神を学びます。

(アルスシムラ公式ホームページより)

志村ふくみさんは、草木染めの糸を使用した紬織で人間国宝として知られています。 

志村洋子さんは、志村ふくみさんの娘で、お母様とおなじく染織家の方です。

 

そして、アルスシムラの学校は、京都は嵯峨野にあります。

(ここで余談ですが、前泊は花園駅の目の前のホステルで、アルスシムラの最寄りの嵯峨嵐山駅までは近かったです。ただ…駅から徒歩25分と遠く、東京より暑かったのでレンタサイクルを借りて、アトリエへの行き帰りで「寺タイムアタック」などと称した、ひたすらに時間のなさと戦うような情緒のない寺巡りもしました…これそのまま話したら、アトリエの先生方にも笑われちゃいました(笑))

 

さて、ワークショップ内容は、午前中に植物の色で絹糸を染めて、お昼ご飯を食べる間にゆっくり自然風で乾かして、午後になったら糸を巻き取って、染めた黄色を使いつつ用意された好きな色の糸を機で織るというものでした。順に書いていきますね。

 

まずは染め。キッチンに移動して、黄色いお湯の入った鍋を一同で囲み、先生が微笑みながら「なんの植物でしょうか」というので、顔を近づけて香りから予想しようとしました。誰かが威勢よく言ったのが大当たりで、それは「クチナシ」でした。

 

窓から入る京の風。それはきっと今日も明日も少しずつかたちを変えながら吹く風。

ちょうどいい温度の鍋の中。気持ち良さそうに泳ぐ糸。

火をつけて人間が熱さに少しだけ耐えて糸をあそばせる温度の鍋の中。まるで、ここ一番を悟ってグッと集中したかのように色がギュッと入る糸。

3回、植物を煮出したお湯の中に入ったら染めは終わり。

 

午前中、ふと絹糸に関心が出てきてしまったわたしは先生に「この糸はどこから来るんですか?」と聞きました。そうしたら、群馬県の碓氷製糸と教えていただきました。

先生にお礼を言った後、グーグルで調べてみてわかったのは、群馬県の碓氷製糸株式会社というのは、現在、日本最大の製糸工場なのだそうです。2014年、世界遺産に「富岡製糸場と絹産業遺産群」として認定された富岡製糸場は操業停止していますよね。担い手の方は今どんな思いで絹糸を繰っているのでしょうか。新たな関心が芽生えました。

 

糸が乾くまでの時間は、お昼ご飯。事前のメールに、「近くにお店がないのでお昼に食べるものを準備してください」と書かれていたのに、嵯峨嵐山駅に着くまでお昼ご飯の調達をしていなかったわたし。川端康成司馬遼太郎の作品にも登場する(これは後で知った)嵯峨森嘉豆腐で、あつあげ2つと飛龍頭(ひろうす)1つを調達。買うときに印象的だったことが2つ。1つめは、恐る恐る発したわたしの飛龍頭のイントネーションが現地のそれと違ったこと。仕方ないんですけどね。2つめは、(会話を詳細には覚えてないけど)買った豆腐を入れる器を持ってALWAYS三丁目の夕陽みたいに昔ながらの豆腐の注文をしていたこと。ゴミを減らす工夫が根付いているんだと思いました。ふと側に目をやると、「ゴミのない綺麗な京都へ」(ニュアンス)といった標語が書かれたゴミ箱が設置されていました。間違っても、東京でよく見るような飲みかけのタピオカはなかったです。というか、タピオカ屋さんを見かけなかったかなー。はい、話を戻すと、豆腐類3つと友達からもらったケーキもあるから、それでおなかいっぱいだろうと急に安心できました。

案の定、おなかは満たされました。京都のお豆腐、本当に美味しいです。よかった、よかった。

 

午後は、糸巻き取って(「小管巻き」といいます)、自分たちで染めたクチナシの黄色の糸を使いつつ、用意された好きな色の糸を機で織る。

「五光(別名ふわり)」を使って糸を巻き取ります。ここで驚いたのは、絹糸の丈夫さです。上手く五光を使いこなせなくて強く糸を引っ張ってしまうときも、プツンと切れてしまうことがありませんでした。

そして、機織りをしました。「あゝ野麦峠」の女工さんたちはこうやってお仕事をしていたのだろうかと考えていました。今の自分みたいに楽しんでやる分にはいいけれど、薄給で雇われてこき使われ、それでも家族のためにと頑張らなくてはいけないのはどれだけ苦しかっただろうとも思いました。母方の実家は旅館を経営しながら蚕を育てていたと聞いているので、織機は祖母や母の生活の近くにあるものだったろうとも思っていました。

 

いろいろな思索に耽りつつも、集中してしまうと没頭してしまうわたしです。

色を変えるときに、一回糸を切る必要がありました。色を変えるとき以外にも、何回かに一度糸が絡まったから糸を切ってしまうことがありました。

 

ワークショップ終了の時間が近づいてきたので、と先生に言われてハッと覚めるわたし。わたしの織機の横には、2,3本の糸くずがありました。間違いなくわたしが使った色には違いありません。こういう時は、迷いもなく糸くずを捨ててきました。

 

でも、この時はキュッと胸が締め付けられるような気持ちになりました。だって、染めていっしょにあそんで織った、わたしの愛おしい糸。先生方から「糸を捨ててはいけません」なんてひとことも言われていないのに、捨てることは罪深いと思えて苦しかったのです。

 

結局、何にも入っていない黒いゴミ箱の底に丁寧に置くようにして捨ててしまったのだけれど。

 

この気持ちを、ワークショップ全体を通しての感想を言う場面があったので、参加者と先生方の前でだいじにだいじにお伝えしました。そうしたら、予科(アルスシムラに通って教えてもらう)に通ってらっしゃった人が声を出して納得してくれたんです。

そして、先生方はわたしの言うことを聞いて、実際にアトリエでは糸を捨てずに集めておく箱があるのだと教えてくださいました。

 

それでは、いとおしい、わたしの糸。

ようやく、見せる時が来たから。

みてください。

 

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 (Instagram掲載写真に同じ)

 

とてもかわいいでしょう?このテキスタイルはわたしが織ったもので、桃をイメージしています。桃は、ふるさと福島県の特産品なので。桃、なんとなく、わかりますか?

あえて言葉で説明するなら、上段の黄色いグラデーションが桃の瑞々しい果肉。

中段は、キリッとした異国風で絵巻物にも描かれていそうな色の桃の葉っぱ。

それから、下段はつやつやとしていてわたしたちを魅了する桃の皮。それでいながら、やさしさのベールで果肉をふうわり包んでいるんです。

 

最初から、桃をモチーフに織ろうと思っていたわけではありません。

自分たちで染めたクチナシの2種類の黄色しか織り込んでいなかったところに、先生に教えを乞いましたら美しい景色などのイメージを作ってみたらと言っていただいたので、桃というイメージで織っていくことに決めました。それからは、織りがスイスイ進んだ気がします。

 

壮大すぎるかもしれないけれど、まるで、人生みたいだなと思いました。

人生。どんなふうになっていきたくて、次はどうしていくか定まっていないと進んでいくことは難しいですよね。方針が決まっていないとなかなか進路が決められない。

 

2016年10月21日に公開されている、ほぼ日刊イトイ新聞のインタビュー記事『あたらしい道をつくる仕事。志村洋子さん+志村昌司さん[5]atlier shimuraがはじまる。』で、志村昌司さんが次のように話しています。

経糸(たていと)が運命、緯糸(よこいと)が生き方、
今の自分っていうふうに、
これは志村ふくみの言葉ですけれど、
それを思うと。
‥‥張られた経糸は、
一度張っちゃったら張り直しができないんです。

 わたしは今回、緯糸しか織っていないのでちょっと言っている対象が違うということになりますが、人生は張り直しができない糸を、自分の意思で責任を持って紡いでいくこと…

わたしが言語化しきれないことを、より多くの学びを以て教えていただきました。

 

そういえば、すごく久しぶりのブログ更新となりました。

更新を待っていてくれたお友達、みていますか。楽しみにしているんだといつも伝えてくれて、素直に喜ぶことができていないわたしだけど、本当にありがとう。

 

昔のブログをちょっと見てから書きましたが、感性も言葉遣いもなんか少しだけ大人になった気がします。どうですか?客観的に見て、みなさんもそのように思いますか?

 

しばらく更新していないと、次に書くのは心が震えて震えて仕方なかった時なんだと、どうしても書き渋りがちになりますね。今回は、昨日の素晴らしい体験をまだ記憶があざやかに残っているうちにどうしてもみなさんに伝えたいという気持ちで書きました。

 

こちらアルスシムラでのワークショップは、6月7日にマガジンハウスから発刊された『& Kyoto/ 暮らすように街を歩く、京都ガイド。』でも紹介されているそうです。とても人気で予約が取りづらいそうで、なんと今年の夏の分はもう予約がいっぱいだそうですが、長期休暇に開催していて春開催分もあるはずなのでぜひ行ってみてください。成城での開催もありますよ!